人が心の不安やストレスの状態にある時に身体の症状で訴えることを「身体化」と呼びます。昔から言われている「病は気から」は少し意味が違いますが、精神と身体が密接に関わっている事を示しています。精神的な不安や心理的ストレスによって、様々な身体症状が出る可能性があり、しかもその症状は複数であったり部位が変わったりする事もあります。
なんらかの症状が出たときに、「精神的なもの」「ストレスから」と自分で決めつけるのは危険です。本当に身体的な異常が無いかをまずは疑ってみることが大切です。胃腸の調子が悪いのであれば胃腸の内視鏡検査が必要かもしれません。頭痛と吐き気があるのであれば頭部MRIを受けた方が良い場合もあります。自分で判断するのではなく、まずは医師に相談して頂き、必要な検査をする事によって身体の病気ではない事を確認すべきです。
検査で何も異常がない事が分かると、多くの人は安心して、症状があってもあまり気にせずに過ごすことが出来るようになり、気がつくと症状が消失してしまっている事が珍しくありません。しかし検査で異常が無いと言われても重大な病気が隠れていると真剣に悩み、病院を渡り歩いたりする人がいます。この状態になると「身体症状症」を疑います。この「身体症状症」の人は、色んな検査をしても異常はなく、長期に渡って症状に悩んでいます。そして、その症状によって仕事が出来なくなっていたり、社会生活上の障害になっている事が多いのです。内科にかかっていると、「気のせいだから」「どこも悪くないから」と冷たくされる場合もあり、本人は傷付き苦しんでいる事も少なくありません。
身体症状症は精神科・心療内科領域で扱われる疾患であり、内科の先生では診療範疇外としている場合も多いようです。消化器内科をしていると、身体症状症と思われる消化器症状(腹痛、腹部膨満感、吐き気など)の患者さんが多く来院されるため、以前から当方では診断と治療をしています。身体症状症の人の中には実際に身体的な病気が見つかる事もあります。例えば、動悸があって不整脈の存在を診断された場合、不整脈の頻度に比較して過剰なまでの動悸と不安感を訴えます。早期胃癌が見つかり治療した後も、吐き気や腹痛を訴えて、また胃癌が再発したのではないかと夜も眠れないほど心配する人もいます。こうした人は実際に症状を感じているのであり、周囲の人に心配してもらいたいために故意に振る舞っているわけではないのです。
長期に渡って胃腸症状や動悸、頭痛やめまいなどがあり、複数の病院で検査を受けて異常が無いと言われた人。その症状で日常生活が普通に送れずに苦しんでいる人は是非一度ご相談ください。