鍼治療はどのように作用するのだろうか?皆さんは知っていますか?今まで鍼治療を受けたことがない患者さんにとって、いざ鍼治療を受けようと思っても、鍼治療の作用を知らないと不安で受けにくいですよね。そのため、西洋医学の観点から鍼治療の作用について紹介します。
米国国立医学図書館(NLM)が作成する“PubMed(パブメド)”という海外の医学系分野の代表的な文献情報データベースがあります。このPubMedで鍼灸の作用について検索してまとめた論文の中に、ちょっと古いですが、2006年に“How might acupuncture work?[鍼治療はどのように作用するのだろうか?]”という論文があります。これは臨床試験という、いわゆる鍼治療の効果や安全性について確認するために行った試験から、2005年までに得られた生理学的根拠を調査した論文になります。
この論文では、臨床試験を行った中には、79件の鍼灸臨床試験があり、そのうち26件(33%)の研究は識別可能な生理学的根拠を示していないですが、残りの53件(67%)の研究は、鍼治療の効果を何らかの生理学的根拠を示していました。53件のうち33件は神経化学的メカニズム(内因性オピオイド[βエンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン]またはセロトニン、※内因性オピオイドというのは体内で作られるモルヒネに類似した物質の総称になります。)、セロトニンは脳内の神経伝達物質になります。2件は分節神経系効果(脊髄神経)、6件は自律神経系調節、3件は局所効果、5件が脳機能への影響であり、他5件も根拠を示した報告があります。
また、米国国立衛生研究所の国立補完代替医療センター(NCCAM)のホームページには、「鍼はどのように作用するのか」という質問と答えが載っています。答えは、「鍼治療は、神経系を調節することによって、エンドルフィンのような痛みを殺す生化学物質や体内の特定部位における免疫系細胞の活動を助けることによって、その効果を生み出すと提案されています。さらに、鍼治療は神経伝達物質や神経ホルモンの放出を変化させることで脳科学を変化させ、免疫反応や人の血圧、血流、体温を調節するプロセスなど、感覚や不随意の身体機能に関係する中枢神経系の部分に影響を与えることが研究されています。」。脳の機能活動がどの部位で起きたかを画像化するfMRIという機器を使用すると、鍼刺激と特定の感覚や運動機能を持つ脳の領域と相関することを示しているようです。まだメカニズムは明確ではないそうですが、手足の末梢の部分や身体に鍼で刺激を与えると、中枢神経系である脳に影響を与えるようです。
このように、西洋医学の観点からの鍼治療は、脳や末梢神経、自律神経などを調節する作用があります。この論文が提出されてから16年たっている現在では、評価機器も充実しているので、より多くの鍼治療の作用が報告されています。今後は安心して鍼灸治療を受けて頂けるよう、新しい情報を発信していきます。