新型コロナウイルス感染症で翻弄された3年間、皆様の中には感染して入院したり後遺症に悩まされた方もおられると思います。新型コロナワクチンは従来とは異なる作用機序のワクチンであったため、その危険性や副反応がクローズアップされましたが、ワクチンの効果により感染予防と重症化が抑制され、多くの人の生命が守られたことは間違いないと考えます。
元々、病気になってから治すよりも病気にならないように予防することが大切であるという認識は、多くの人に共通のものかと思います。高血圧症にならないように塩分を控える、糖尿病にならないように甘いものや炭水化物は控えることは常識ですが、節制することは言うは易く行うは難しであることは皆様ご経験済みかと思います。
自らの努力がほとんど要らない予防医療の代表がワクチン接種です。今回は現在日本で実施されている(当然米国でも実施されている)ワクチンに関してお話しします。
①肺炎球菌ワクチン;現在日本では主として2種類のワクチンが使用されています。このワクチンは肺炎球菌という肺炎を引き起こす菌に対する抗体を付けるものです。髄膜炎、菌血症(バイ菌が全身に回る状態)、入院を必要とするような肺炎予防に効果があります。入院するような肺炎を74%減らすとの報告があります。現在は65歳から公費援助でニューモバックス(PPSV23)というワクチンが打てます。基礎疾患のない65歳以上の方にはニューモバックス(PPSV23)1回のみ推奨(米国CDC)されています。日本では5年あけて2回目を打つことが勧められています。プレベナー(PCV13)は個々の患者さんの状態によって使用を検討します。基本的には基礎疾患のない人は65歳以上でニューモバックスを1回接種し5年後に2回目を接種します。慢性疾患や喫煙者、アルコール依存症の方は65歳未満でも1回接種して5年後に2回目を接種します。免疫不全や脾機能低下の人はプレベナー(PCV13)を65歳未満で接種開始し、8週間後以後にニューモバックス接種をし、以後も5年後にニューモバックス接種を繰り返す必要があります。最近ではPCV20というワクチンが開発され、今後主流になってくるものと思われます。
②インフルエンザワクチン;多くの方が毎年秋に受けているワクチンです。予防効果に関しましてはインフルエンザ様症状を58%減少し、肺炎は18%から52%減少、入院は27%から70%減少すると言われています。効果は6ヶ月から8ヶ月持続しますので、10月初旬に受けても途中で免疫力がなくなるという心配はありません。費用対効果も良いワクチンですから、出生後6ヶ月以上の全ての人(妊婦も含めて)が接種対象になります。
③帯状疱疹ワクチン;帯状疱疹は一生で3人に1人が発症し、85歳までに2人に1人が罹患すると言われています。帯状疱疹になると、その後に神経痛で何年間か苦しむ人もいます。これは帯状疱疹後神経痛と呼ばれており、帯状疱疹になった人の15%位に起こると言われています。帯状疱疹のワクチンには2種類あります。元々日本では、水痘ワクチン(乾燥弱毒水痘ワクチン)という生ワクチンが使用されていましたが、最近では不活化ワクチンであるシングリックスというワクチンが使用できます。現在ではシングリックスが推奨されており、50歳以上の方で2から6ヶ月間隔で2回の接種が推奨されています。19歳以上の免疫不全の方の場合には1から2ヶ月間隔での2回接種が推奨されています。
今回は重要なワクチン3種類について解説しました。そのほか、破傷風ワクチン、B型肝炎ワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPV)なども必要な場合があります。疑問に思っていることは診察の時にご相談ください。