糖尿病というと、食生活の乱れや運動不足、肥満、遺伝などの原因を思い浮かべる人が多いと思いますが、実は「睡眠不足」が糖尿病の一因であるという研究報告があります。
不眠症は睡眠障害の中で最も高頻度に認められる病態です。日本の一般人口を対象として行われた疫学調査によれば、成人の21.4%が不眠を訴えています。 さらに、成人の14.9%が日中の眠気に悩み、6.3%が寝酒あるいは睡眠薬を常用していることが明らかにされています。平成19年に厚生労働省が行った調査でも、国民の5人に1人が「睡眠で休養が取れていない」「何らかの不眠がある」と回答しています。 不眠症は、小児期や青年期には稀であり、20~30歳代に始まり、中年以降で急激に増加し、40~50歳代でピークを示します。 この背景には、人口の高齢化、ライフスタイルの多様化、生活リズムの乱れ、ストレスなどが関連していると考えられています。
糖尿病ではない3,570名の健診受診者を対象として睡眠時間や睡眠の質が糖尿病の新規発症リスクに及ぼす影響について検討された結果、不十分な睡眠や夜間覚醒、総合的な睡眠の質の低さなどが糖尿病発症の危険因子である事が判明しました。睡眠不足は交感神経を活発にするホルモンの分泌を増やし、血糖、血圧、心拍数を増加させます。一方、このホルモンの作用により血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効き目を悪くする「インスリン抵抗性」を高めてしまいます。また、睡眠不足は食欲を亢進させるホルモンの分泌を促すため、食べ過ぎによる余剰なエネルギー摂取が肥満を惹起します。さらに慢性的な睡眠不足は日中の眠気を招くことから運動不足になりやすくなります。結果として血糖値が上昇し、糖尿病発症に影響すると考えられています。
では不眠を解消し、質の高い睡眠を確保するために注意すべき点は何でしょうか?
規則的な生活を送ることは体内時計のリズムを整え、睡眠の質を高める事ができます。また、運動は一時的な体温上昇を招きますが、その後深部体温が低下し、軽い疲労感が生じるため、眠りやすくなります。一方、就寝前の飲酒は眠りが浅くさせてしまい、良質な睡眠の妨げとなります。また、PCやスマートフォン等も睡眠前に操作を続ける事で機材から発生するブルーライトにより脳が覚醒状態となり寝つきが悪くなりますので注意が必要です。
十分な睡眠時間の確保と質の高い睡眠を維持する事が糖尿病発症の危険性を低減するとともに、健やかな生活を送るための礎となるのです。最近、眠りが浅い、夜中に目が覚める等、気になることがありましたら、是非主治医へご相談下さい。