柳川クリニック新聞

腹痛で悩んでいる方へ  柳川健

 

当院には胃腸症状の方が多く来院されます。

「胃が痛い」、「下腹部が痛い」、「お腹全体が張るように痛む」。症状は様々ですが、お腹の痛みで悩んでいる方は少なくありません。お腹の痛みが頻繁にある方は年齢に関わらず、内視鏡や超音波検査などの検査をお勧めします。

 

胃潰瘍や十二指腸潰瘍、腸の炎症などが見つかることもあり、特に胃にピロリ菌が生息して潰瘍を繰り返している方は、ピロリ菌を除菌することで腹痛が嘘のように無くなってしまう事もあります。腸の炎症の病気が診断されれば、必要に応じて薬を服用することで腹痛が良くなることも少なくありません。 

 

胃腸の内視鏡検査や超音波検査・CT検査も全て異常がないのに腹痛が続いている。そんな方もしばしばご来院されます。腹痛の原因として少なくないのが「機能性」の異常です。 胃や腸は動きのある臓器ですが、その動きに異常があるために腹痛が起こるのです。機能の異常ですから、内視鏡検査などでは異常所見がありません。薬を使って胃腸の動きを調節すると痛みがなくなります。そして、時にこの機能の異常と、同時に存在する腹痛の原因が「心因性」のものです。うつ病や不安障害などがあり腹痛を伴っている人もいますが、そうした病気がないのに腹痛が精神的な原因で起こる事があるのです。一般的には30歳前の比較的若い時期に症状が出てくることが多いもので、腹痛以外の痛み(頭痛や胸痛など)にも悩んでいることもあります。

 

胃潰瘍などの内視鏡診断から、心因性の腹痛まで、当院では幅広い診療を提供しています。腹痛でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

「不妊症で漢方治療中に妊娠・出産に至った方のお話」

 

30代の女性が「冷え症、乾燥肌とかゆみ、慢性の疲労感」に対して漢方治療希望とのことで来られました。診察で陰虚証(冷え症体質、慢性疲労感)と脾虚(消化器系の機能低下)と瘀血(血流不全)ありと診断され人参湯合当帰芍薬散料(煎じ薬)を処方しました。

通院1ヶ月後「かゆみも軽く、疲れも前より楽です」と改善を認めたので経過を見ていたところ、3か月目に「先生、実はもう一つ悩みがあります」と切りだされました。1年前に産婦人科で原因不明の不妊症と診断され一度も妊娠せず今日に至り半ば諦めていた。漢方で不妊症に対する治療もできますか?という相談でした。

妊娠・出産は「命」を生み出すのですから壮大なエネルギーを必要とします。この方の不妊はそのエネルギー=「気」が不足したための現象と考えられました。そこで牛車腎気丸料(煎じ薬)を従来の薬にプラスして処方しました。

通院11か月ごろ腹部の診察でお腹がふっくらし、女性ホルモンのよい影響が出ている感触がありました。「そろそろかな?」と思いながら見守っていたところ妊娠されました。その後、38週で元気な女の赤ちゃんが誕生したと写真入りの手紙を送ってくださいました。

不妊症には多くの要因があり治療は簡単ではありません。しかし、漢方で体質の弱い部分を治療することで、その一助になれると考えています。

(当院の一般的な治療方針の一つとひて紹介しています。漢方治療は個人により、処方や対応が異なります。)

慢性胃炎の変な話   小尾 龍右

胃の内視鏡検査を受けた方で慢性胃炎と言われた方があるとおもいます。

ところが、「慢性胃炎は治療の必要はありません」と言われて納得できなかった、

という方はいらっしゃいませんか?

 

結論から申し上げると、原則的に慢性胃炎は腹痛、胃もたれ、吐き気などの自覚症状がなければ治療の必要はありません(もちろん例外はあります)。

 

その理由をご説明します。

内視鏡で観察しているのは胃の粘膜です。これを皮膚に例えましょう。皮膚の状態は皆さんそれぞれに違います。年齢、性別、生活環境、体質によって皮膚はいろいろな状態を呈しています。赤ちゃんの皮膚と比べれば、大人の皮膚はみなシワシワに萎縮しています。擦れて赤みが出やすい部分もあります。

皮膚を肉眼で見るだけでなく顕微鏡で拡大して見ると、色素沈着、亀裂、乾燥があり炎症していることがわかります。しかし、それをすべて皮膚炎として治療しないのは、かゆみ、出血、痛みなどの自覚症状がないからです。

 

それと同じで胃の粘膜を内視鏡や顕微鏡で観察してみると年齢や食習慣などに応じて様々な慢性の変化が認められます。しかし、その多くは健康を害するほどではないので、慢性胃炎という病名が一応付きますが原則的に治療の必要はないのです。治療の必要があるかどうかは検査の結果だけでなく、

症状の経過、服薬状況、年齢、胃粘膜の状態をみて内視鏡専門医が総合的に判断していますのでどうぞご安心ください。

 

これで慢性胃炎と病名がついても治療が不要と言われるのはなぜか?理由がお分かりいただけたでしょうか。 

 

ところで、本当の名医は人間の医者ではなくて獣医さんだと思うことがあります。

動物は症状の経過を話すことが出来ませんから、治療のための判断材料が少ないのです。

それでも病気を治しているのですから、獣医さんのほうがよほど優れているなと思います。

 

苦しくない胃内視鏡検査(胃カメラ)で食道ガン検査も 柳川 健

最近有名人が食道ガンになったことを公表し、食道ガンの問い合わせが増えています。
「胃の内視鏡検査を受けているが食道も見ているか」「食道ガンは診断が難しいと聞いたが大丈夫か」

など、皆様の不安を強く感じます。

 

食道は口(正確には咽頭)と胃をつなぐ約25㎝の管状の臓器です。

したがって胃内視鏡検査(正確には上部消化管内視鏡検査)の際には食道の観察もしています。

 

しかし胃ガンと同様に食道ガンも早期での発見が時に難しいことがあります。

とくに食道ガンでは出っ張ったり凹んだりしない早期ガンが比較的多いため、

従来の内視鏡検査や最近の経鼻内視鏡では見つかりにくいのです。 

 

そこで当院では、NBI(狭帯域光観察)という特殊な光と拡大観察によって
表面構造を強調して観察する装置を導入しています。

さらに50歳以上の男性で食道ガンになる危険性が高い飲酒者や喫煙者に対しては
積極的にルゴールという染色液を撒いて観察するようにしています。

この染色液を撒くと食道粘膜は茶色に染まりますがガンは染まらないので診断が容易になるのです。

 

食道ガンは50歳以上の男性で、酒とたばこが好きで、特に酒を飲むと顔が赤くなりやすい人に多く発症すると言われています。

 

年に1回の精密な胃内視鏡検査によって早く診断がつけば必ず治りますので、

勇気をもって検査を受けてください。内視鏡検査は決して苦しい検査ではありません。

 

当院では、苦しくない精密な検査を常に追求し最新の機器の導入と技術の提供を心がけています。

「漢方治療で喘息が楽になった方のお話」  小尾 龍右

患者さんは40代の女性です。
お話を聞くと「難治性喘息のため専門病院で治療中。吸入薬に加えて内服薬も飲んでいる。しかし、一年中苦しさが続いている。苦しい時は内服のステロイド剤を増量して耐えている。漢方で少しでも楽になりたい」と切々と訴えられました。

 

治療内容を尋ねると喘息を良くする西洋薬はすべて処方されていました。

専門病院の先生の苦悩が垣間見えます。動脈血酸素飽和度を測ると94%に低下しており、苦しいのも無理のないことです。

 

さっそく漢方医学的診察をしました。苦しさを改善するには、気管支の治療だけでなく、精神状態、体重の適正化が必要と判断しました。そこで、麻杏甘石湯合小青龍湯(煎じ薬)と抑肝散(エキス剤)を処方しました。

 

2週間後の診察では動脈血酸素飽和度が97%に改善しました。「非常に楽になった。ぜひ飲み続けたい」と言われたので治療を継続しました。10週間後、患者さんは嬉しそうに来られました。

なぜなら呼吸が楽なのは勿論のこと、体重が85から79kgに減り、肝機能やコレステロール値も正常になったのです。専門病院の先生は目を丸くし、測り間違いではないかと確認されたほどです。私も驚くほどの改善ぶりです。階段も楽に上れるようになり苦しい日常から解放されました。 

難治性の病態でしたが、漢方的に全身治療したことが効を奏したものと推測しています。

(*患者さんの了承を得て文章を作成しています)

病は気から? 柳川 健

 昔からの言い伝えやことわざに、時にびっくりすることはありませんか? 私は昔の人はなぜこんなにも真実を見極める力、そしてそれを言葉に残す力があったのだろうと考えることがあります。そんな言葉の中に「病は気から」というものがあります。  
 病は気から。「病」はもちろん病気のことですよね。そして「気」は気持ち、精神のことでしょう。この言葉の解釈は、病気の原因は精神的なところにある。あるいは肉体的な病気の予防も、まずは精神的に健康でなくてはいけない、ということでしょう。もう少し深く考えてみましょう。

 病とは、肉体的あるいは精神的に健康ではない状態のことを指していると考えます。そこにはもちろん自分自身がその状態に気付いている場合と気付いていない場合があります。たとえば、早期胃癌ができていても症状はありません。本人も自分は健康であると思っています。でも病気があることは確かです。内視鏡検査で診断されると、その方は胃癌の「患者」、つまり病人になります。一方、検査などしても何も異常がないのに本人は病気があると自覚している場合もあります。たとえば頭痛がある人は辛く苦しいのですが、CTなどの検査をしても何も異常が見つからないことは珍しくありません。この場合、検査上異常はありませんが、本人にとって病気はあるわけです。このように「病」には本人が自覚しているものとしていないものがあると言えるでしょう。

 「気」とは何でしょうか。広辞苑によると「天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられるもの。また、その動き」「心の動き・状態・働きを包括的に表す語」と書いてあります。「病は気から」というときの「気」は「心の動きや働き」ということになるでしょうか。つまり、私たちの気の持ちようがあらゆる病をつくるというのが「病は気から」の意味するところであると考えられます。あなたはこの言葉を真実であると思いますか、それとも間違っていると考えますか。

 かなり以前から楽観的な人は悲観的な人よりも癌になりにくいと言われます。楽観的な人はおおらかに過ごすため、交感神経の興奮が抑えられる結果免疫力が高いことが原因ではないかと考えられています。そのことに基づいて、「笑い」による癌治療を行っている医師もいます。そうしたことを考えると、「病は気から」は全く間違っているとは言えないようです。

 いつも前向きな気持ちを持ち続けている人は、外見も健康そうですし元気があります。一方、生きることに消極的で、いつも悪い側面ばかり見ている人は、どことなく不健康そうに見えますよね。やはり、いつも明るい気持ちを持っていた方が病気にはなりにくいと言えるかもしれません。

 では、「病」の状態を「気」で治すことができるのか。私にとってはここのところが最も興味のあるところです。つまり気持の持ちようを変えると病的な状態が治せるのかどうか。ある心理学によれば、本人が持っている自分自身や周囲に対する心の状態、別の言葉で言うならば、色々なことに対してその人の持っている「信念・価値観」「自己認識」を変えることによって「病」は治ることが多い、ということです。

 「信念・価値観」「自己認識」を変えるとはどういうことでしょう。たとえば、家系的に胃癌が多い人の場合、自分自身も最後は胃癌で亡くなるのではないかと考えている人は少なくありません、そして実際にそう考えている人は胃癌になりやすい気がします。胃癌に実際になった時に、親戚や家族が胃癌になってもみんな治っている人の場合には、自分も治ると考えますし、胃癌になった身内がみんな亡くなっていると、自分も治らないと考えやすいものです。たとえ進行癌であり、通常では治りにくい状態であっても、自分も完治すると信じている人は通常、非常に良好な経過をとることが多いのです。

 また、病気が実はその人の「信念・価値観」を示していることがあるようです。病気には誰でもなりたくないのですが、心の深いところで、病気になれば得られるものがあり、無意識的に病気を呼び寄せているということがありそうです。すこし分かりにくい話ですので具体的な例をお話しします。

 あまり家族関係が良くない人がいました。その人が進行性の肺癌と診断され、本人も家族もあわてます。手術をして原発巣(もともとの肺癌のところ)を切除しました。しかしすでに転移が複数個所あり化学療法をすることになりました。本人は化学療法をしても苦しいだけで完治しないのであれば受けたくないと拒否をしました。相談を受けたある心理学の専門家がその人と面接をしたところ、本人も気づいていなかったことが色々と出てきました。その中でも注目すべきことは、本人にとって肺癌になることで家族が自分のことを心配して振り向いてくれることを無意識に望んでいたというのです。つまり、病気という本来であれば好ましい状態ではないことになることによって、その人が最も望んでいた家族の絆をもう一度確認することを無意識のうちにしていたということです。興味深いのは、そのことを本人も気付いていたわけではなく、誘導されて深く内省した時に初めて気づき、その考え方(信念)を変えることによって肺癌が消失したというのです。もちろん、病の考え方を変えることによってすべての病気が治るわけではありませんが、少なくとも自分自身の健康観や病に対する考え方を変えることによって、現在の健康な状態を維持することができるのではないかと私は考えます。

 「病は気から」という先人の教えに従って、いつも前向きな明るい気持ちで過ごすことによって健康な状態を保ちながら生活していきたいですね。

「動脈硬化を予防する方法」 柳川健

動脈硬化という言葉を聞いたことがない人はいないと思います。私たちの動脈は、もともとはとても柔らかいゴムのようなものですが、年齢とともに硬くなってきます。どんなものでも使っているうちに古くなるのは仕方がないのですが、使い方によってその老朽化も差が出てくるのは私たちの体でも同じです。

なぜ動脈硬化は起こるのでしょうか。動脈の中を流れる血液中には色々な物質が流れています。その中でも、LDLという悪い油が血管の壁に付着し、その油が酸化されるとフリーラジカルというものができて血管壁を破壊していくのです。もう少し簡単に言うと、血管の中を流れている血液中のドロドロとした油が血管の壁にこびりつき、その油が酸化されると血管壁を破壊していくのです。

ここで大切なのは、動脈硬化が起こってくる過程で、最初にドロドロとした悪い油(LDL)が血管の壁に付着するということと、その油が酸化される必要がある、ということです。

そうした過程で血管壁が破壊されると、そこには血液を固める成分がくっつきやすくなり、血栓という血の塊ができやすくなります。血栓ができて血管を塞いでしまうと、いわゆる脳梗塞や心筋梗塞といった病気が発症することになります。血管が血栓で塞がれた場合、他からの血流がない場所で病気が生じるのです。脳や心臓、そして下肢がそれにあたります。

心筋梗塞や脳梗塞はとても身近な病気であり、これを読んでいただいている方の中には、これらの病気にかかったことのある人もいることでしょう。現在でも4割近い方がこうした血管が詰まる病気によって命を落としています。

では、どうやって心筋梗塞や脳梗塞を予防すればよいのでしょうか。それは、動脈硬化をいかに進行させないようにするかということです。先ほどお話しましたように、動脈硬化を起こす大きな原因として、血管壁への油の付着とその酸化があります。したがって、そうしたことを起こさせないようにすることが大切なのです。油を付着させないようにするためには、血液中を流れる悪い油を少なくすることです。皆さんも血液検査でご自身の悪い油であるLDLの値を知ることができるはずです。このLDLを通常は140未満にすることが必要です。他に糖尿病や高血圧という病気のある方や、すでに心筋梗塞になったことのある方は、もっと低い値でなくてはいけません。血液中の悪い油が減れば、血管の汚れは少なくなるであろうことは想像がつきますよね。

しかし、悪い油が血管に付着しただけでは血管は破壊されないのです。その油が酸化されたときに生じるフリーラジカルという物質が悪さをするのです。

私たちは空気中の酸素を体内に取り入れ、その酸素を使うことによって様々な代謝を行い生きていけるのです。しかし、酸化という過程においてフリーラジカルというものができてきます。このフリーラジカルは、私たちの体を守るために必要でもあるのですが、その量が多かったり、すぐになくならずに存在することによって組織を破壊することになります。実はこのフリーラジカルは子供に多く存在するのですが、子供はこのフリーラジカルを消し去る物質を体内で沢山つくることができるのです。そのため子供は動脈硬化にはならないのです。40歳を過ぎた頃から、体内で作られるフリーラジカルを消し去る物質が減ってくるために、 40歳を過ぎたら、いわゆる抗酸化対策が必要になります。

抗酸化力を持つものは数多くありますが、その代表はビタミンACEとαリポ酸、コエンザイムQ10などです。こうしたビタミンや補酵素を毎日摂取することによって、動脈硬化の進展を少しでも遅らせることができると考えられています。もちろん、こうしたビタミン剤を摂取した人が動脈硬化性の病気になりにくくなったという、科学的な証拠・証明はありません。しかし、摂取することによるデメリットはない以上、大きな希望を持って私は毎日摂取しています。

特にαリポ酸は、血管から脳の中に容易に入るため、脳の神経細胞の抗酸化に働き、認知症の予防にもなるのではないかと考えられています。

また、悪い油であるLDLを低下させ、HDLという良い油を増やすことにより動脈硬化を予防することができます。このHDLを増やすには運動をすることが一番です。よく歩き、体を動かしましょう、と昔から言われていることは正しいのです。このHDLを増やすためのもう一つの方法はEPAという魚の油を摂ることです。サバやイワシに多く含まれていますので、普段からこうした魚を多く食べるようにすると良いと思います。またEPAはサプリメントとしても普及していますので、そうしたものを利用するのもよろしいかと考えます。

もちろん、喫煙、深酒、という生活習慣のある人はそれを改善させることが必要ですし、糖尿病や高血圧という病気のある人はきちんと治療しておくことが重要です。

動脈硬化は自覚症状なく確実に進行していきますが、現在分かっている方法で少しでもその進行を遅らせることにより、心筋梗塞や脳梗塞を予防し、元気に年を重ねていこうではありませんか。

「これからのクリニックに求められるもの」 柳川健

「日頃より皆様には、当クリニックをご利用いただき、心より感謝しております。」

こんな一文を読んで、違和感を大きく感じる方は、従来の医療を守ろうとする保守派。少し違和感を持つが、当然であると思った方は、以前からの医療を知りつつも快く思っていなかった方。全然違和感を持たないあなたは現代人。というところでしょうか。

体の状態がとても悪くて当クリニックを利用される方はほとんどいません。多くの患者さんは、症状も特にない高血圧、高脂血症、糖尿病といった生活習慣病の治療や、 2次検診や定期検査としての内視鏡検査を目的に来院されます。したがって、「患者」という呼称はふさわしくなく、あえて言うなら「健康な患者さん」もしくは「利用者さん」というのが適切でしょうか。

一昔前までは、診療所や病院は具合が悪くなって行く所と決まっていました。具合が悪いから仕方なく行くところ、だから医療従事者は横柄な態度でも仕事ができていたのでしょう。しかし現在では、特に困ってはいないけど健康を維持するために通院する人の割合が増えており、しかも日本ではどの医療機関を選ぶかは利用者さんの自由意志なのですから、医療側も従来の考え方で仕事をしているわけにはいかないのです。

今回は、理想とするクリニックとはどういうものか、少し考えてみたいと思います。私が考える理想のクリニックはシンプルです。それは利用者さんにとって「役に立つクリニック」です。では、皆さんにとって「役に立つクリニック」とはどんなクリニックですか。利用者さんにとっては、近所にあるクリニックですべてのことが間に合うのが理想でしょうが、そうはなかなかいきません。一言で言えば、きちんと守備範囲を持っていて、自分の守備範囲を超えるものに関しては、他の医療機関に正確に振り分けをしてくれるクリニックが理想であると思います。

新聞で読んだ方も多いと思いますが、政府は「総合医」なるものを認定し、総合科を病院、医院に標榜させようとしています。これは、消化器科、呼吸器科といった科目別の診療科目では、利用する患者さんにとってわかりにくいからというのが理由です。日本ではずいぶん長い間、内科医であっても胃腸しか診れない医師や呼吸器しか分からない医師を作ってしまうような卒後教育をしてきたのです。結果として、自分の専門科しかできない開業医も少なくありません。それを是正するものとして「総合科」の認定をしようというのですが、これにもかなり疑問があります。どういう医師にその認定を与えるかという問題です。内科学会の中では、「内科専門医」制度があり、内科全般の研修を受け、知識を持ち合わせていると学会が認定しているのです。しかし、内科専門医のみを総合医とすることもいろいろと問題がありそうです。

私も「内科専門医」ですので、専門の胃腸科以外の内科疾患も幅広く診療しています。しかし、診断や治療が困難な利用者さんは専門施設にご紹介するようにしています。専門の領域においては、胃や大腸の検査に関しては大学病院の内視鏡検査と比較しても劣ることはないと自負しています。しかし、内視鏡治療に関しては、入院施設がない等の理由により、大きな病変に関しては扱わないと決めています。現在そうした患者さんは、国立がんセンター中央病院内視鏡部医長斉藤豊先生や湘南鎌倉総合病院消化器内科部長森山友章先生にお願いしています。そうした連携をきちんと作っておくことが、私のクリニックを利用して下さっている方にたいする私の責任であり義務であると考えています。

そうした連携する医療機関を持っていて、自分の守備範囲をきちんと持っているクリニックが理想であると皆さんも思われますか?これは理想ではなく当然のことと考えるかたも多いのではないでしょうか。ただ、この当然のことが当然のように行われていないのが現状であると思います。したがって、多くのクリニックがこの当然のことをするようになるのが、まずは理想の医療の第一歩であるとは思います。

私が考える本当の理想のクリニックは、実は少し現実離れしているのです。現在のクリニックにも私の理想の一部が取り入れられています。一言で言えば、「癒し」と「医療」の融合と言えばよいでしょうか。単に病気になって具合が悪いから医療機関にかかる、というのではなく、健康を維持していくために定期的に通う場所としてのクリニックを作りたいのです。皆さんは休暇を取って温泉旅行に行ったり、ゴルフに行ったりしますよね。それは日常の疲れを取り、健康を維持増進させることが目的ですよね。そうしたものと同じように定期的にクリニックにかかる。そこでは、検査等による全身のチェックを受けることができ、運動療法、食事療法、鍼灸、整体、エステ、アロマ等による全身のバランス調整と精神的と肉体両面の癒しを得ていただけるようにしたい。これが私の目指している、作りたいクリニックなのです。

あなたにとって健康とは何ですか? 柳川健

 あなたは健康ですか?この質問に皆さんが「もちろん」と答えていただきたい。そんな思いで日々の診療をしています。
 健康とは何でしょう?広辞苑を調べてみると、「身体に悪いところがなく心身がすこやかなこと」と書いてあります。皆さんはどう思いますか?身体に悪いところがあったら健康ではないのでしょうか?心身共にすこやかなこと、つまり心の状態も良好であることが健康の条件というわけです。
 ある程度の年齢になると、検診で異常値を指摘されたり、身体のどこかが悪かったりということが多くなります。何か少しでも問題があると健康ではないと考えがちではないでしょうか。もともと私たちは、ないものに注目しがちです。視力検査のときに環の欠けている方向を言う、あの検査です。何も言われなくとも欠けているところに目が行きます。私たちの持っている習性の一つと言われています。このことは他のことにもあてはまり、身体の不具合が少しでもあるとそこに意識が集中してしまい、不健康な状態という意識をもってしまうのです。もちろんそのことは私たちの身体を守ってくれているとも言えます。私たちはおかしなところがあると病院に行って何か病気がないかと調べてもらうことができるのです。一方で、原因が分かってもその不具合が改善しないものであったり、何も異常がないことが分かっても、その不具合を強く意識したまま生活している人も少なくありません。そうした時、人は健康ではない、不健康である、というのです。

 私は健康であるための条件を「自分自身が健康であると考え信じていること」と考えています。どんな病気を持っていても、どんな状況にあってもその人自身が健康であると感じているのであれば健康なのです。こんな風に書くと、では癌があっても健康なのか、と反論されそうです。しかし、そのような方でも、その人自身が前向きな気持ちで、明るく生活して、自分の病気は大したことはない、自分は健康であると考えていれば、その人は健康であると言って良いではありませんか。ある人が健康かどうかということはその人が決めることであり、他人が決めることではないと思います。たとえそれが医者であってもです。 極端なことを言えば、私たちは生まれた瞬間に、不治の病、致死率100%の病を持っているのです。それは「加齢」という病気です。そう考えると、少しくらいの病気、たとえそれが癌であっても、必要以上に気にしたりすることはないのではないでしょうか?
 そんなことはきれいごと。やはり病気があれば健康とは言えないという人もいることでしょう。そういう人は、あなた自身が持っている健康な部分、健康な気持ちを探して数えることをお勧めします。自分は不健康であると感じている人でも、数えきれないくらいの健康な部分があることに驚くでしょう。

 健康であると信じることが健康状態を作る。私はそう信じているのですが、誤解していただきたくないのです。健康だと信じていれば病院にもいかず、検査も受けなくとも良いのです、という意味ではありませ。検査を定期的に受けることで、私たちは自分自身の健康なところに強い自信を持つことができるのです。たとえば、私は定期的に胃と大腸の内視鏡検査を受けています。そのため、時々ある下痢や腹痛の際にも、悪い病気のためとは考えなくて済んでいます。そのことは私自身が自分の身体が健康であると信じる大きな根拠になっているのです。つまり、定期的な検査を受けて自分の身体の状態を客観的に知ることで、健康であることの確信を強めて欲しいのです。少しくらい悪い所見が見つかった場合でも、良いところに注目し、プロである医師に相談しながら前向きな明るい気持ちで悪いところと関わっていけば良いのです。
 あなたは飛行機に乗る時、整備点検されている機体だと信じているからこそ安心していられるわけです。私たちの体も同じことです。定期的な点検をして、治せるところは治しながら健康感をもち毎日を楽しく安心してすごしたいものです。

 私もこの2月5日で46歳になりました。気持はまだ20代ですので、46という数字に自分でも驚きます。しかし、年々気持ちも充実して楽しく仕事や趣味を楽しんでいます。「100歳以上まで現役で」を信条にして公言していますので、まだまだ人生を楽しむことができると信じています。
 クリニックに通院していただいている方に対しては、健康な状態を維持するお手伝いをさせて頂きたい。そんな気持ちで毎日の診療をしています。是非定期的な検査を受けて不具合のところは早めに修復し、心身ともに健康感をもって日々の生活を楽しんでいただけるお手伝いを今後もさせて頂きたいと思っています。

「開腹手術後の癒着について」 小尾龍右

 なんらかの病気でお腹の手術を受けられた方がいらっしゃると思います。お腹の手術には大別すると、開腹手術腹腔鏡(ふくくうきょう)手術があります。開腹手術がよいか、それとも腹腔鏡手術がよいのかは、病状、年齢、既往歴、手術の難易度などによって高度な医学的判断が必要です。したがって一概にどちらの手術が良い、悪いといえるものではありません。しかし、腹腔鏡手術の方がお腹にのこる傷跡が小さく傷の痛みも少なく腸の癒着もおこりにくいということから患者さんに優しい手術として徐々にひろまっています。

 なぜ、腸の癒着がおこりにくいと患者さんに優しいのかといえば、腸の動きと関係があります。腸はお腹の中で食べ物を消化するために自由に動きながら、しゃくとり虫のように蠕動運動をしています。この、「腸が自由に動ける」ということが重要です。手術によって癒着が起きると、腸と腸または腸と傷口が接着剤ではりつけたようになるため、腸の動きが制限されます。そうすると、消化に時間がかかったり、ひどい場合は食べ物が腸の中に停滞、貯留して、嘔吐や腹痛をひきおこす腸閉塞となります。また、大腸内視鏡検査を行う時も内視鏡の動きが制限されて挿入が困難になったり、検査時の腹痛につながります。

 例えば、私たちが普段はいているズボンを想像して下さい。右足、左足が自由にうごかせるからこそ、階段の昇り降りや走ることができます。しかし、ズボンの右足と左足があっちこち、べたべたと接着剤でくっついてしまったらどうでしょう。普通に歩くことすら難しいとおもいます。腸に癒着がおきるということは、両足がくっついたまま歩くようなものです。したがって、癒着が起きないほうが患者さんに優しいわけです。

 ただし、癒着の程度がほんのすこしであったり、腸の動きの邪魔にならない部位であれば癒着があってもなんら問題はありません。実際、開腹手術後になんの後遺症も無く、大腸内視鏡を苦も無く受けていらっしゃる方もおられます。さらに、開腹手術の時に特殊なフィルムを使用して腸を保護したり、手術の直後から大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬を服用することで癒着や腸閉塞の防止に効果を上げています。医学は進歩しています。

ここまで読まれたかたは、「政官財の癒着」という言葉のイメージもありますので、癒着=悪いこと、という印象が強まったと思います。しかし、それは誤解です。癒着というのは手術によってできた傷口を塞ぐために必要な生体反応が起こった結果なのです。言いかえると、手術を受けて傷口がのりづけされるときに、のりがはみ出してしまい、そのために腸と腸または腸と傷口がくっついてしまったという結果であって、癒着という反応が悪いわけではないのです。「癒える」ときに「接着」するから癒着なのです

 体の中でおきることには全て意味があります。それがときには良い結果を生む場合もあるし、悪い結果につながることもあります。しかし、それは体が生きよう、治ろうとして頑張った結果なのです。だから「なぜこんなことになったのだ」と落ち込まないでください。人間はいくら「死にたい」と念じても心臓の鼓動を止めることは出来ません。逆に「生きたい」と念じても停止した心臓を動かすことはできません。精神が、肉体という場を借りて、生かして頂いている存在が人なのです。ですから、癒着肉体が治ろうとして頑張った結果なのだと解釈してあげてください。そして、頑張ったけれど余分に癒着を起こしてしまった肉体を食事療法や薬でサポートして、元気に長生きさせていただくという考え方で病気を捉えて欲しいと思います。

 開腹手術を受けた方の食事に関する注意事項は、一度にたくさん食べ過ぎないことが重要です。なぜかというと、癒着があると腸の動きに制限が加わるため、一度に処理できる食べ物の量もおのずと決まってしまうからです。道路にたとえると、一定の交通量なら渋滞を起こしませんが、車が増えると流れが詰まります。それとおなじです。したがって、満腹の食事を3食ではなく、腹7分目にして4食いただくことをお勧めします。

 また、海藻、キノコ類、イモ類も控えたほうがよいでしょう。これらの食品は食物繊維が多いので、普通の人が食べれば便通をよくしてくれますが、腸に癒着がある方の場合は食物繊維が腸の動きの悪いところで渋滞をおこして腸閉塞を発症する場合があります。少量なら問題ありませんが、人並みにたべることは避けたほうが良いと思われます。

 薬は、便通が一定になるように便秘薬をご自分にあうように調節されるとよいでしょう。癒着の程度や消化力は十人十色ですから、これを飲めばよいという特効薬はありません。それゆえ、何を飲めばよいのか、毎日排便がないと悪いのではないかと、悩んでしまう方もあると思いますが、極論すれば腸閉塞にならないことを目標にすればよいのです。日々の便の硬さや出方をみたうえで、食事や薬を医師と相談しながら調節する余裕は十分にあります。時間をかけてご自分にあった調整法を見つけてください。

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