漢方外来

「花粉症と衛生仮説」 小尾 龍右

花粉症の季節ですね。花粉症のことを別名「アレルギー性鼻炎」と言います。
アレルギー性鼻炎は花粉だけでなくホコリ、ダニなどによって、くしゃみ、鼻水、鼻づまりを起こす病気の総称です。アレルギー性鼻炎は1970年以降急増し、今なお増えています。

原因は、戦後にスギが大量に植林されて花粉量が増えたから等の説がありますが、はっきりしません。同じ環境でも発症しない人や、大人になってから花粉症になったという人もあり、ひとりひとりの内的要因もあると考えられます。

一般的な治療は「抗アレルギー薬(略して抗ア薬)」の内服や点鼻薬を使います。
抗ア薬は第1世代と第2世代があります。古い第1世代は眠気が問題でしたが、現在の第2世代は改善され安心して飲めます。抗ア薬は10種類以上あります。基本的な効果はどれも同じですが、鼻づまり解消にはそれを得意とする抗ア薬がありますのでご相談下さい。どうしても眠気が出る方には小青竜湯などの漢方薬が役に立ちます。ご相談は漢方外来で承ります。


また、一部の第2世代抗ア薬が薬局でも手に入るようになりました。なかなか医療機関にかかれない方は、薬局の薬剤師さんにご相談なさってください。
抗ア薬は安心して長期服用できる薬なので、花粉症シーズンの約2週間前から服用し、花粉飛散が終了するまで服用を続けることが一般的です。  
一方、抗ア薬を服用中にもかかわらず症状が出る場合は、ステロイド入りの点鼻薬を使います。この点鼻薬は効果も早く確実で副作用が少ないことから重宝します。ただし、点鼻という作業が面倒な点がデメリットです。
こうした、抗ア薬や点鼻薬でも症状が治まらないときは、短期間に限定してステロイド薬を内服します。そのほか、特殊な治療としては減感作療法やレーザー治療などがあります。アレルギー専門の医療機関や耳鼻咽喉科の専門外来で御相談下さい(当院では行っておりません)。


ところで、昔は注射一本で花粉症を治すといった話を聞きましたが最近は減っています。理由は薬の副作用です。使用される注射薬は強力なステロイドで効果も絶大ですが、全身に作用するため副作用も大きいのです。鼻という局所の病気に対する治療としては強すぎます。例えるなら、たばこの火を消すのに、消防車で消火しているようなものです。注意して下さい。


最後に「衛生仮説( hygiene hypothesis )」という興味深い学説を御紹介します。乳幼児期に牛・馬の糞に含まれる細菌と日常的に接触していた子供はアレルギー疾患になる率が低くなるという学説です。最近では公園の砂場は犬猫の糞尿で汚れているから、屋内の消毒した砂場で子供を遊ばせるそうですが、動物や細菌と接触しないクリーンな環境が逆にアレルギー疾患を増やすとは皮肉なことです。自然と触れあい、他の生き物と共生する。そんな、ヒトとして大切な原点を現代人は忘れがちではないでしょうか。花粉症の季節には、そんなことも考えさせられます。

「治らないと言われたら」  小尾 龍右


この病気は治らない」と大病院の専門家に言われて、途方に暮れて漢方外来を受診される方がいらっしゃいます。その方たちは一様に、絶望と希望の境界線を行ったり来たりしている表情をされています。

漢方医として診療を続けて17年になります。その間、多くの難病、不治の病と宣告された方の診療に関わってきました。私も若いころは難病を治そう、病気を克服してやろうと意気込んでいました。しかし、残念ながら治療者としての栄誉より、敗北感のほうが深かったと言わざるを得ません。

そこから得た教訓は「病気をねじ伏せて勝とうとしない」ということです。病気を無くす、老化を無くすという考えは不自然なのではないか。人は誰もが病気となり老いていく。それを限られた寿命の中でいつ迎えるかに過ぎないのではないか、そう考えるようになりました。その結果、病気は治らなくてもよいから、なだめて、悪さをしないように、躾ければいいのではないかと思うに到りました。

西洋医学は勝利を求める医学ですが、東洋医学は和解を目指す医学です。西洋医学は病気に勝つということを目指します。よく、患者さんからも「治りますか?なんで治らないのですか?原因はなんですか?」と質問されます。残念ながら、こういう考え方に捉われていると心が休まることはなく、治療は苦しいものとなります。なぜなら病気の多くは原因不明で将来を確実に見通すことは誰にも出来ないからです。したがって、完全な勝利か敗北かという二元論から脱却し、どうやれば病気や症状を落ち着かせられるかと考えることが難病の治療では特に大切なのです。

孟子の言葉に「道は近きにあり。しかるにこれを遠きに求む」とあります。答えは目の前にあるのに、どこか遠いところにあるように考えてさまよってはならないという意味です。「この病気をたちどころに治せる治療法がどこかにあるかもしれない」と、探し求めてへとへとになってはいませんか?

夢の新薬、最新の治療を探し求める前に、知らず知らずに自分を傷つけている日々の不摂生や怠惰を改め、真に自分自身を大切にすることを積み重ねる。そういう過ごし方をすることによって、最終的には病気を落ち着かせることができると思います。

漢方治療の効果とは、単に漢方薬の薬効成分による効果だけではなく、漢方医の診察を受け、きちんと漢方薬を飲むという行為を通して無意識に患者さん自身が「道は近きにあり」に気付き、自分自身を大切にするという努力を積み重ねた結果でもあると思います。

治らないと言われても絶望しないでください。東洋医学の考えにもとづいて治療してみてください。治らなくても、落ち着かせることはできると思います。  

「花粉症に役立つ漢方薬」  小尾 龍右

今年は例年よりも花粉の量が多いそうです。
花粉症でお困りの方も多いと思いますが、漢方では
どのように治療するかお話ししたいと思います。

花粉症の典型的症状はくしゃみ、鼻水、鼻づまりです。
花粉症に対する代表的漢方薬である小青竜湯は麻黄、
甘草、桂枝、五味子、半夏、芍薬、乾姜、細辛の8つの
生薬を混合して作ったものです。
料理に例えるなら、8つの食材を一定の比率でミックス
してのせたミックスピザのようなものといえます。

この8つの生薬の作用を簡単に説明すると、麻黄と甘草
は鼻水や鼻づまりを抑え、桂枝、五味子、半夏はくしゃみ
を抑えます。芍薬は血のめぐりを改善し、乾姜、細辛は肺を
温め、複数の生薬が協力して花粉症の症状を抑えます。
鼻の症状なのに、肺を温めたり、血のめぐりを改善する生薬
が入っているのはなぜでしょうか。
その理由は、冷たい空気を吸うと肺が冷えて血の巡りが悪く
なり、それをきっかけに鼻炎になる場合があるからです。
今起こっている鼻炎症状を治すだけでなく、鼻炎を予防する
治療も同時に行っているところが漢方治療の特徴です。

さらに、漢方治療に一貫する治療哲学は「和」の心です。
聖徳太子が「和をもって貴しとなし、さからうこと無きを宗とせよ」
と言ったように、それぞれの生薬が個性を主張しながら争いません。
8つの生薬が協調して治療効果を発揮しているのです。
漢方薬を服用されるときは「和」の精神で、心身の「和」のみならず、
人の「和」、社会の「和」にも心を向けて頂ければ、漢方医として
嬉しく思います。
(当院の一般的な治療方針として紹介しています。漢方治療は、
個人により処方や対応が異なります)

「不妊症で漢方治療中に妊娠・出産に至った方のお話」

 

30代の女性が「冷え症、乾燥肌とかゆみ、慢性の疲労感」に対して漢方治療希望とのことで来られました。診察で陰虚証(冷え症体質、慢性疲労感)と脾虚(消化器系の機能低下)と瘀血(血流不全)ありと診断され人参湯合当帰芍薬散料(煎じ薬)を処方しました。

通院1ヶ月後「かゆみも軽く、疲れも前より楽です」と改善を認めたので経過を見ていたところ、3か月目に「先生、実はもう一つ悩みがあります」と切りだされました。1年前に産婦人科で原因不明の不妊症と診断され一度も妊娠せず今日に至り半ば諦めていた。漢方で不妊症に対する治療もできますか?という相談でした。

妊娠・出産は「命」を生み出すのですから壮大なエネルギーを必要とします。この方の不妊はそのエネルギー=「気」が不足したための現象と考えられました。そこで牛車腎気丸料(煎じ薬)を従来の薬にプラスして処方しました。

通院11か月ごろ腹部の診察でお腹がふっくらし、女性ホルモンのよい影響が出ている感触がありました。「そろそろかな?」と思いながら見守っていたところ妊娠されました。その後、38週で元気な女の赤ちゃんが誕生したと写真入りの手紙を送ってくださいました。

不妊症には多くの要因があり治療は簡単ではありません。しかし、漢方で体質の弱い部分を治療することで、その一助になれると考えています。

(当院の一般的な治療方針の一つとひて紹介しています。漢方治療は個人により、処方や対応が異なります。)

「漢方治療で喘息が楽になった方のお話」  小尾 龍右

患者さんは40代の女性です。
お話を聞くと「難治性喘息のため専門病院で治療中。吸入薬に加えて内服薬も飲んでいる。しかし、一年中苦しさが続いている。苦しい時は内服のステロイド剤を増量して耐えている。漢方で少しでも楽になりたい」と切々と訴えられました。

 

治療内容を尋ねると喘息を良くする西洋薬はすべて処方されていました。

専門病院の先生の苦悩が垣間見えます。動脈血酸素飽和度を測ると94%に低下しており、苦しいのも無理のないことです。

 

さっそく漢方医学的診察をしました。苦しさを改善するには、気管支の治療だけでなく、精神状態、体重の適正化が必要と判断しました。そこで、麻杏甘石湯合小青龍湯(煎じ薬)と抑肝散(エキス剤)を処方しました。

 

2週間後の診察では動脈血酸素飽和度が97%に改善しました。「非常に楽になった。ぜひ飲み続けたい」と言われたので治療を継続しました。10週間後、患者さんは嬉しそうに来られました。

なぜなら呼吸が楽なのは勿論のこと、体重が85から79kgに減り、肝機能やコレステロール値も正常になったのです。専門病院の先生は目を丸くし、測り間違いではないかと確認されたほどです。私も驚くほどの改善ぶりです。階段も楽に上れるようになり苦しい日常から解放されました。 

難治性の病態でしたが、漢方的に全身治療したことが効を奏したものと推測しています。

(*患者さんの了承を得て文章を作成しています)

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