「治らないと言われたら」  小尾 龍右


この病気は治らない」と大病院の専門家に言われて、途方に暮れて漢方外来を受診される方がいらっしゃいます。その方たちは一様に、絶望と希望の境界線を行ったり来たりしている表情をされています。

漢方医として診療を続けて17年になります。その間、多くの難病、不治の病と宣告された方の診療に関わってきました。私も若いころは難病を治そう、病気を克服してやろうと意気込んでいました。しかし、残念ながら治療者としての栄誉より、敗北感のほうが深かったと言わざるを得ません。

そこから得た教訓は「病気をねじ伏せて勝とうとしない」ということです。病気を無くす、老化を無くすという考えは不自然なのではないか。人は誰もが病気となり老いていく。それを限られた寿命の中でいつ迎えるかに過ぎないのではないか、そう考えるようになりました。その結果、病気は治らなくてもよいから、なだめて、悪さをしないように、躾ければいいのではないかと思うに到りました。

西洋医学は勝利を求める医学ですが、東洋医学は和解を目指す医学です。西洋医学は病気に勝つということを目指します。よく、患者さんからも「治りますか?なんで治らないのですか?原因はなんですか?」と質問されます。残念ながら、こういう考え方に捉われていると心が休まることはなく、治療は苦しいものとなります。なぜなら病気の多くは原因不明で将来を確実に見通すことは誰にも出来ないからです。したがって、完全な勝利か敗北かという二元論から脱却し、どうやれば病気や症状を落ち着かせられるかと考えることが難病の治療では特に大切なのです。

孟子の言葉に「道は近きにあり。しかるにこれを遠きに求む」とあります。答えは目の前にあるのに、どこか遠いところにあるように考えてさまよってはならないという意味です。「この病気をたちどころに治せる治療法がどこかにあるかもしれない」と、探し求めてへとへとになってはいませんか?

夢の新薬、最新の治療を探し求める前に、知らず知らずに自分を傷つけている日々の不摂生や怠惰を改め、真に自分自身を大切にすることを積み重ねる。そういう過ごし方をすることによって、最終的には病気を落ち着かせることができると思います。

漢方治療の効果とは、単に漢方薬の薬効成分による効果だけではなく、漢方医の診察を受け、きちんと漢方薬を飲むという行為を通して無意識に患者さん自身が「道は近きにあり」に気付き、自分自身を大切にするという努力を積み重ねた結果でもあると思います。

治らないと言われても絶望しないでください。東洋医学の考えにもとづいて治療してみてください。治らなくても、落ち着かせることはできると思います。  

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