心療内科

加齢による良性の物忘れと病的な物忘れとの違い

加齢による良性の物忘れと病的な物忘れとの違い
 ~アルツハイマー型認知症を中心に~

                                    柳川クリニック 漢方科・心療内科  手塚健太郎

 

人は誰でも一般的に年をとると物忘れをしやすくなりますが、
たいていは良性の物忘れです。

よく見られるのは、「昼何を食べたかと聞かれて食べた物を思い出せない」、
「テレビでよく見る芸能人なのに名前がすぐに出てこない」、
「物を置き忘れ使おうと思った時に見当たらずあわてる」、
「以前買ったのを忘れて後日もう一度買ってしまう」などですが、
ヒントをもらうと思い出せたり、忘れたための失敗とわかって後悔したりします。
また、30分くらい前のことは思い出せますし、今日の日付や曜日、住所や慣れた
駅からの帰り道などはちゃんとわかっており、判断力はほとんど低下しないので、
日常生活にはそれ程支障が生じません。また、進行性もあまりありません。

これに対し、認知症の代表的な疾患であるアルツハイマー型認知症による
物忘れでは、「食事をしたとか自分が話したという体験自体を忘れてしまうため、
他人がそのことを指摘しても思い出さない」、「ヒントをもらっても思い出せない」、
「数分前のことも忘れてしまう」、「日付や曜日、住所を忘れてしまう」、
「通り慣れた道や今までできていた料理の作り方も忘れてしまう」などの特徴があり、
判断力が低下して日常生活にも支障が生じてきます。
また、物忘れが数年単位でゆっくり進行します。

加齢による良性の物忘れの方は、物忘れや記憶力の低下に対する自覚があるため、
しばしば認知症ではないかと心配してご自分で医療機関を受診されますが、病的な
物忘れの方は、自覚がなく、異常に気付いた家族など周囲の人に伴われて医療機関
を受診されることが多いとも言われています。

最後に、「公益社団法人認知症の人と家族の会」が会員の方の経験からまとめた
認知症早期発見の目安を挙げておきます。
医学的な診断基準ではありませんが、暮らしの中での目安として参考にしてください。
いくつかに思い当たることがあれば、専門家に相談してみるとよいでしょう。

●物忘れがひどい
   ・今切ったばかりなのに、電話の相手の名前を忘れる
   ・同じことを何度も言う・問う・する
   ・しまい忘れ置き忘れが増え、いつも探し物をしている
   ・財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う
●判断・理解力が衰える
   ・料理・片付け・計算・運転などのミスが多くなった
   ・新しいことが覚えられない
   ・話のつじつまが合わない
   ・テレビ番組の内容が理解できなくなった
●時間・場所がわからない
   ・約束の日時や場所を間違えるようになった
   ・慣れた道でも迷うことがある
●人柄が変わる
   ・些細なことで怒りっぽくなった
   ・周りへの気遣いがなくなり頑固になった
   ・自分の失敗を人のせいにする
   ・「この頃様子がおかしい」と周囲から言われた
●不安感が強い
   ・一人になると怖がったり寂しがったりする
   ・外出時、持ち物を何度も確かめる
   ・「頭が変になった」と本人が訴える
●意欲がなくなる
   ・下着を替えず、身だしなみを構わなくなった
   ・趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった
   ・ふさぎ込んで何をするのも億劫がりいやがる

 


 

「漢方とメンタルヘルス」  手塚健太郎  

 

東洋医学には「気」「血」「水」という概念があります。
健康な状態では、これらが体に過不足なく存在し滞ることなく流れ巡っていて、
大まかに言うと、何らかの原因でこれらの流れが滞ったり不足したりした時に、
様々な不調が生じると考えられています。

漢方医はこの理論に沿って、目の前の患者さんの体の中で滞ったり不足したり
しているものと、その時の患者さんの持っている強さ(≒体力)とを見極め、
適切な漢方薬を処方して治療を行います。

東洋医学の古典を読むと、古来「気」「血」「水」の滞りや不足を起こす原因の多くは、
細菌やウイルスなどの感染症、打撲や外傷、厳しい気候、飢餓、肉体疲労などだった
のですが、文明が進んだ現代では人間を取り巻く社会が複雑化した結果、これらに
代わって精神的なストレスの占める割合が大きくなっていると感じます。

特に「気詰まりな人間関係」などから来る精神的なストレスによって、
「気」の流れの滞りが生じやすく、これが長く続くと「気」の不足や「血」「水」の異常も
伴ってくるように感じます。

「気」の滞りのことを東洋医学では「気うつ」と呼び、
これは現代精神医学で言う「抑うつ状態」に非常に近似した状態(完全に一致するものではありませんが、イメージとして共通するところは多い)です。

東洋医学的な視点で、特にこの「気うつ」に着目して「気」「血」「水」のバランスを整える
治療を行うことは、このような現代人のメンタルヘルスの向上に有用だと考えています。

また、精神的なストレスは、俗に言う「気晴らし」の一つとして、一人で抱え込まず気心の
知れた相手に話を聴いてもらうなどすると少し楽になるものですが、人間関係が希薄に
なった現代では気軽に悩みを相談できる相手に恵まれにくい方も多いと思われます。

漢方診療の中で、精神科医としての経験もいかしてお話を伺うことで、
漢方薬の効果をさらに高められればと考えています。

 


 

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