病は気から? 柳川 健

 昔からの言い伝えやことわざに、時にびっくりすることはありませんか? 私は昔の人はなぜこんなにも真実を見極める力、そしてそれを言葉に残す力があったのだろうと考えることがあります。そんな言葉の中に「病は気から」というものがあります。  
 病は気から。「病」はもちろん病気のことですよね。そして「気」は気持ち、精神のことでしょう。この言葉の解釈は、病気の原因は精神的なところにある。あるいは肉体的な病気の予防も、まずは精神的に健康でなくてはいけない、ということでしょう。もう少し深く考えてみましょう。

 病とは、肉体的あるいは精神的に健康ではない状態のことを指していると考えます。そこにはもちろん自分自身がその状態に気付いている場合と気付いていない場合があります。たとえば、早期胃癌ができていても症状はありません。本人も自分は健康であると思っています。でも病気があることは確かです。内視鏡検査で診断されると、その方は胃癌の「患者」、つまり病人になります。一方、検査などしても何も異常がないのに本人は病気があると自覚している場合もあります。たとえば頭痛がある人は辛く苦しいのですが、CTなどの検査をしても何も異常が見つからないことは珍しくありません。この場合、検査上異常はありませんが、本人にとって病気はあるわけです。このように「病」には本人が自覚しているものとしていないものがあると言えるでしょう。

 「気」とは何でしょうか。広辞苑によると「天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられるもの。また、その動き」「心の動き・状態・働きを包括的に表す語」と書いてあります。「病は気から」というときの「気」は「心の動きや働き」ということになるでしょうか。つまり、私たちの気の持ちようがあらゆる病をつくるというのが「病は気から」の意味するところであると考えられます。あなたはこの言葉を真実であると思いますか、それとも間違っていると考えますか。

 かなり以前から楽観的な人は悲観的な人よりも癌になりにくいと言われます。楽観的な人はおおらかに過ごすため、交感神経の興奮が抑えられる結果免疫力が高いことが原因ではないかと考えられています。そのことに基づいて、「笑い」による癌治療を行っている医師もいます。そうしたことを考えると、「病は気から」は全く間違っているとは言えないようです。

 いつも前向きな気持ちを持ち続けている人は、外見も健康そうですし元気があります。一方、生きることに消極的で、いつも悪い側面ばかり見ている人は、どことなく不健康そうに見えますよね。やはり、いつも明るい気持ちを持っていた方が病気にはなりにくいと言えるかもしれません。

 では、「病」の状態を「気」で治すことができるのか。私にとってはここのところが最も興味のあるところです。つまり気持の持ちようを変えると病的な状態が治せるのかどうか。ある心理学によれば、本人が持っている自分自身や周囲に対する心の状態、別の言葉で言うならば、色々なことに対してその人の持っている「信念・価値観」「自己認識」を変えることによって「病」は治ることが多い、ということです。

 「信念・価値観」「自己認識」を変えるとはどういうことでしょう。たとえば、家系的に胃癌が多い人の場合、自分自身も最後は胃癌で亡くなるのではないかと考えている人は少なくありません、そして実際にそう考えている人は胃癌になりやすい気がします。胃癌に実際になった時に、親戚や家族が胃癌になってもみんな治っている人の場合には、自分も治ると考えますし、胃癌になった身内がみんな亡くなっていると、自分も治らないと考えやすいものです。たとえ進行癌であり、通常では治りにくい状態であっても、自分も完治すると信じている人は通常、非常に良好な経過をとることが多いのです。

 また、病気が実はその人の「信念・価値観」を示していることがあるようです。病気には誰でもなりたくないのですが、心の深いところで、病気になれば得られるものがあり、無意識的に病気を呼び寄せているということがありそうです。すこし分かりにくい話ですので具体的な例をお話しします。

 あまり家族関係が良くない人がいました。その人が進行性の肺癌と診断され、本人も家族もあわてます。手術をして原発巣(もともとの肺癌のところ)を切除しました。しかしすでに転移が複数個所あり化学療法をすることになりました。本人は化学療法をしても苦しいだけで完治しないのであれば受けたくないと拒否をしました。相談を受けたある心理学の専門家がその人と面接をしたところ、本人も気づいていなかったことが色々と出てきました。その中でも注目すべきことは、本人にとって肺癌になることで家族が自分のことを心配して振り向いてくれることを無意識に望んでいたというのです。つまり、病気という本来であれば好ましい状態ではないことになることによって、その人が最も望んでいた家族の絆をもう一度確認することを無意識のうちにしていたということです。興味深いのは、そのことを本人も気付いていたわけではなく、誘導されて深く内省した時に初めて気づき、その考え方(信念)を変えることによって肺癌が消失したというのです。もちろん、病の考え方を変えることによってすべての病気が治るわけではありませんが、少なくとも自分自身の健康観や病に対する考え方を変えることによって、現在の健康な状態を維持することができるのではないかと私は考えます。

 「病は気から」という先人の教えに従って、いつも前向きな明るい気持ちで過ごすことによって健康な状態を保ちながら生活していきたいですね。

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